残業手当が非適用の従業員(exempt employee)の給与基準額その他条件が、ワシントン州最低賃金法に基づき 2020 年 7 月 1 日から、また、連邦公正労働基準法に基づき 2020 年 1 月 1 日から改正されます。この改正により、主には残業手当が非適用の管理職および専門職従業員が影響を受けると見込まれています。また、これら従業員の有給病気休暇(Paid Sick Leave)や、他の労働法上の権利にも影響が生じます。
【ワシントン州残業手当基準(発効日:2020 年 7 月 1 日)】
ワシントン州労働者は、概して、以下の条件を満たす場合に、残業手当が非適用となります。
1) 定期的に同額の給与(salary)の支給があること。
2) 当該給与額が、法定基準額以上であること。
3) 役員、管理職、専門職、外回り営業職、またはコンピュータ専門職で、法で定める職務上の責任があること。
2020 年 7 月 1 日から、上述 (2) 給与基準額、および、(3) 職務内容の基準が、以下のとおり変更します。
・給与基準額(Minimum Salary Level)
2020 年 7 月 1 日以降、残業手当が非適用となる従業員の給与基準額が、州の最低賃金に基づき上昇します。現在、ワシントン州における給与基準額は、州法よりも従業員保護の厚い連邦公正労働基準法に基づき、週給 455 ドル(年俸 23,660 ドル)となっています。2020 年 7 月以降、当該給与基準額は、州の最低賃金(時給 13.50 ドル)の 1.25 倍、即ち週給 675 ドル(年俸 35,100 ドル)になります。即ち、後述例外の場合を除き、改正後の残業手当支給について、従業員の年俸が 35,100 ドルより低い場合は必要となり、それ以上の場合は州法上義務ではありません。最低賃金に乗じる数は、2028 年まで段階的に上昇します。(但し、後述「連邦法残業手当基準」参照。)
次の表は、給与基準額の実施予定表です。2021 年以降の給与基準額は、ワシントン州労働産業局が発表した見込額で、勤労者消費者物価指数の予測値に基づき算出されているため、将来変更する可能性があります。
効力発生日 | 2020/7/1 | 2021/1/1 | 2022/1/1 | 2023/1/1 | 2024/1/1 | 2025/1/1 | 2026/1/1 | 2027/1/1 | 2028/1/1 | |
従業員数 1-50 の雇用主 | 最低賃金への乗数 | 1.25 | 1.5 | 1.75 | 1.75 | 2 | 2 | 2.25 | 2.25 | 2.5 |
週給(ドル) | 675 | 827 | 986 | 1,008 | 1,177 | 1,202 | 1,382 | 1,412 | 1,603 | |
年俸(ドル) | 35,100 | 43,004 | 51,272 | 52,416 | 61,204 | 62,504 | 71,864 | 73,424 | 83,356 | |
従業員数 50 超の雇用主 | 最低賃金への乗数 | 1.25 | 1.75 | 1.75 | 2 | 2 | 2.25 | 2.25 | 2.5 | 2.5 |
週給(ドル) | 675 | 965 | 986 | 1,152 | 1,177 | 1,353 | 1,382 | 1,569 | 1,603 | |
年俸(ドル) | 35,100 | 50,180 | 51,272 | 59,904 | 61,204 | 70,356 | 71,864 | 81,588 | 83,356 |
賞与、歩合給(コミッション)および福利厚生は、給与に含まれないため、給与基準額には加算されません(現行法と同様)。
従業員数の算定は、各実施段階の効力発生日におけるワシントン州勤務のフルタイムおよびパートタイム従業員を合計します。なお、有給家族・医療休暇法に基づく雇用主規模決定のため、州の雇用安定局(Employment Security Department)により毎年算出される従業員数が 50 名未満である場合、雇用主は、翌年の残業手当適用・非適用の判断において、当該従業員数を基準とすることができます。
例外:コンピュータ専門職、教員、外回り営業職
コンピュータ専門職
コンピュータ専門職には、次の表が適用されます。
効力発生日 | 2020/7/1 | 2021/1/1 | 2022/1/1 |
従業員数 1-50 の雇用主 | 時給 27.63 ドル | (未定) x 2.75 | (未定) x 3.5 |
従業員数 50 超の雇用主 | 時給 37.13 ドル x 2.75 | (未定) x 3.5 | (未定) x 3.5 |
教員
教員は、以下の条件を満たす場合は、新規給与基準額は適用されません。
1) 主要業務が、知識の伝達を目的として、教授・教示、個人指導、指示または講義すること。
2) 教育施設での雇用に基づき、教員としての職務に従事していること。
3) 定期的に同額の給与(salary)の支給があること、または特定業務に対する報酬が支払われる場合(fee basis。業務は繰り返し発生せず、また報酬は日数や時間に寄らない)。
外回り営業職
州法に基づく新規給与基準額は、外回りの営業職には適用されません。残業手当の適用・非適用は、現行の基準と大差なく、主には以下の基準で決定されます。
1) 主要業務が、営業に関するものであること。
2) 営業以外の業務が、週単位で 20% を超えないこと。
3) 主要業務が、通常かつ慣習的に、雇用主の事業所から離れた場所で遂行されること。
4) 給与、歩合給(コミッション)または手当が保証されており、また「外回り営業担当」として通知を受けていること。
・職務内容基準
新規基準は、職務内容の精査において、現行の「多数・少数条件」(即ち、給与が低額な場合は残業手当非適用のための条件が多く、給与が高額な場合は残業手当非適用のための条件が少ない)を排除しています。これにより、州の残業手当適用・非適用の判断基準が、より連邦法の基準に沿ったものとなります。
【連邦法残業手当基準(発効日:2020 年 1 月 1 日)】
2020 年 1 月 1 日より、公正労働基準法(連邦法)に基づく給与基準額が、週給 684 ドル(年俸 35,568 ドル)に引き上げられます。この給与額は、2020 年における州の給与基準額よりも高い(即ち従業員保護が厚い)ため、ワシントン州の雇用主は、2020 年は連邦法に基づく給与基準額の条件を満たす必要があります。
連邦法において、雇用主は、裁量によらず自動的に適用される賞与および奨励給(incentive payment。歩合給 – コミッション – 含む)を、毎年 連邦給与基準額の 10% まで加算できます。
【他の権利への影響:有給病気休暇および休憩時間】
・有給病気休暇
新規基準により残業手当が適用される従業員は、ワシントン州有給病気休暇の適用対象となります。なお、シアトル市、タコマ市、SeaTac 市(SeaTac 市は接客業および運送業のみ)で勤務する従業員は、市の有給病気・安全休暇条例で保護されているため、多大な影響はないと考えられます。
・休憩時間
残業手当が適用される従業員には、勤務時間 4 時間毎に最低 10 分間の休憩が付与されます(職務により、10 分間の纏まった休憩ではなく、小休憩を合計して 10 分間休憩とすることも可能)。また、5 時間勤務する毎に、30 分間の食事休憩が与えられます。休憩に関する詳細は、ワシントン州労働産業局の Web ページでご確認いただけます。
【雇用主が取り得る対応措置】
新規基準の影響を受ける雇用主が取り得る対応として、以下の措置が挙げられます 。
・給与額は変更せず、残業手当非適用の従業員を、「適用」扱いに変更する。(但し、残業手当、有給病気休暇、休憩時間等、「適用」従業員に与えられる福利厚生を付与する必要がある。)
・従業員の勤務時間を、週 40 時間に制限する。(事実上残業代は発生しないが、残業手当が適用される従業員には、有給病気休暇や休憩時間等の福利厚生が付与される。)
・ 残業手当非適用従業員の給与額を、連邦法および州法に基づく給与基準額に合致するよう維持・継続する。
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